私、今から詐欺師になります

「どうしたの? 茅野ちゃん」
と玲が横から訊いてくる。

 茅野は携帯を耳に当てたまま言った。

「たぶん、秀行さんが救急車で運ばれてます」

 ええっ? なに冷静に言ってんのっ? と有村たちに言われるが、茅野は電話から聞こえる音に集中した。

 このビルに救急車が来た気配はないから、出先だったのだろう。

 サイレンの音に混じって、秀行がなにかわめいているのが聞こえてくる。

 それに被さるように、省吾の声がした。

『社長が突然、七転八倒し始めて、すぐに救急車を呼んだんですけどっ』
という省吾はかなり動転しているようだ。

「落ち着いてください、奈良坂さん。
 それはたぶん、石です」

『は? 石?』

 省吾が側に居る人間がなにか言うのが聞こえてきた。
 恐らく救急隊員だろう。

『ああ、尿路結石か尿管結石かもしれないそうです』
と返ってくる。

 あー、と茅野は渋い顔をした。