私、今から詐欺師になります

「いや、茅野ちゃん、茂野の子じゃないでしょ」
と玲が言ったとき、今度は、

「茅野」
と呼ぶ声がした。

 どきりとする声だ。
 見ると、社長室のドアが開いている。

 そちらを見ながら玲が、
「あそこにも、用もなく茅野ちゃんを呼ぶ奴が……」
と呟いていた。

 はーい、と穂積のところに行くと、また書類の打ち直しの仕事を頼まれた。

「急がないから」
と言ったあとで、穂積が少し咳き込む。

「風邪ですか?」
と問うと、ちょっとな、と言う。

「一人暮らしで風邪って大変ですよね」
と言ったあとで、茅野は少し考え、

「あの、夜とか体調悪いようでしたら、うちに来られますか?」
と穂積に問うた。

 昼間は、それほどでもなくとも、夜悪化することは、ままあるからだ。

 だが、穂積は、
「なんでそうなる!?」
と言ってくる。

「ええっ?
 すみませんっ。

 でも、うち、部屋も空いてますよ。

 秀行さんも病人に文句言ったりは……
 
 ……いや、するかもしれませんが」

 私が言わせませんっ、と主張する。