私、今から詐欺師になります

「いや、中で使ってやってくれ」
と言って、穂積は社長室に入っていってしまう。

 お、置いてかないでくださいーっ、とその後ろ姿を見送る。

「ねえ、貴女、お名前は?」

「は、はい。
 茂野茅野です」

「茅野ちゃん。
 今までなにか仕事したことある?」

「あ、はい。
 図書館で少し働いてました」

 ふーん、と再び、上から下まで見たあとで、
「まったくお金に困ってなさそうに見えるんだけど」
と言ってくる。

 そ、そうですよね……と苦笑いして茅野は後退した。

 穂積に言われるがまま、此処まで来てしまったが、正直言って場違いだ。

 もう帰りたい、と思っていると、
「お金って幾らいるの?」
と訊いてくる。

「え」

「少しなら都合してあげるわよ。
 だから、それ持って帰るって手もあるわよ」

「いえ、人様にお金を借りるとか」
と言いながら、いやいや。
 結婚詐欺をするんじゃなかったのか、と自分で自分に突っ込む。

 彼女は溜息をついて、言ってきた。

「お金、幾らいるの?」

「えっと。
 七億くらいですかね?」