私、今から詐欺師になります

 




 カーテンを開けたままの部屋で、ひとり携帯を眺めていた穂積は、それを閉じる。

 ふと、茅野の声が聞きたくなったのだが、どうせ、秀行と居るんだろうと思うとかけられないし、かける気にもならない。

 ソファから外の夜景を見ながら、思う。

『今日も一日ありがとうございました。
 それでは失礼致します』

 毎日、わずかな日給の入った袋を胸に、茅野は深々と頭を下げ、帰っていく。

 満足そうな笑顔で。

 ……何故、帰る、茅野。

 それが当然であるかのように茅野は自宅へと帰っていく。

 秀行と共に暮らす家に。

 離婚してはいないし、実家のことを考え、立場的にあの家から出られないのもわかるが。

 穂積は立ち上がり、窓辺に行った。

 あのとき、此処から下を覗いて喜んでいた茅野の幻を肩先に見る。

 あの二人、夫婦としては噛み合っていないのかもしれないが、友人としては、かなり呼吸が合っている気がする。

 今も楽しくやり合ってるんじゃないかと思うと。

 ……イラッと来るより寂しくなってくるな、と思っていた。