私、今から詐欺師になります

 穂積は手を止め、仕方なく秀行を見て言う。

「俺がお前の顔なんか見たいわけないだろう」

「お前が言うな。
 それは俺の台詞だ。

 ……立場的に俺の方が不利だからな。

 茅野の気持ちはお前を向いている」

 おや?
 やはり、思ったほど嫌な奴でもないようだ、とそのとき思った。

 自分ならそんなこと認めたくはないし。

 ましてや、相手に口に出して言ったりはしたくない。

 まあ、憎めない奴なのは確かか。

 あんな忠臣みたいな部下が居るくらいだからな、と省吾を思い浮かべる。

 だが、そのあとは、いつものように、がなり立ててきた。

「お前、茅野に指一本触れてみろ。
 裁判所に訴えるからなっ」

 何故、裁判所……。

 こいつ、たぶん、喧嘩とかしたことない、絵に描いたような優等生だったんだろうな、と思う。

「だいたい、俺が離婚届に判を押さなきゃ、どうにもならないだろうが」

「じゃあ、俺が裁判所に訴える」

「茅野を詐欺でか」
と秀行は鼻で笑ってみせた。