私、今から詐欺師になります

 



 トントンと軽いノックの音がする。
 玲だな、と穂積は思った。

「入れ」
とパソコンから目を上げずに言うと、

「社長、お客様です」
とドアを開けた玲が言う。

 茂野秀行が現れた。
 案の定、白い袋を持っている。

 ドサリとそれをデスクに投げてきた。

「返すぞ、古島」

「いらん」

「いきなり貰っても、いろいろ困るだろうがっ。
 贈与税とかっ」

 第一、印鑑がないっ、とわめく。

 穂積がキーを叩きながら、
「印鑑は渡せんな。
 引き出したいときは俺に言ってこい」
と言うと、

「いちいちお前と口をききたくない。
 だから、これは却下だっ」
とデスクに投げた袋を更にこちらに押し付けようと押してくる。

「っていうか、お前っ。
 人と話すときは、目を見て話せと先生に習わなかったのかっ」