私、今から詐欺師になります

「秀行さんっ」
「此処では、茂野社長だろーっ」

 脱げかけたスーツを引きずりあげながら、秀行とともに、受付まで行く。

 佐緒里が苦笑いして見ていた。

「うるさいっ。
 お前になにしようが俺の勝手だ。

 お前は俺が七億で買ったんだっ」

 そのとき、誰かが、ピシャピシャと秀行の頭をなにかで叩いた。

 穂積だ。

「やる。
 七億」

 穂積の手にある、それは通帳だった。

「ほら」
と穂積は白い、味も素っ気もない小さな袋を秀行に渡す。

 秀行が中身を引き出すと、それは通帳の束だった。

「これで今日から茅野は俺のものだ」

 そう言うや否や、穂積は茅野の肩を抱いて、秀行の側から引き離そうとした。

「金渡されて、はい、終わりなんて出来るわけないだろっ。
 だいたい、金で人の心が買えると思ってるのかっ」

「……秀行さん」
「……茂野」

 お前が言うか、という目で穂積と秀行を見る。