私、今から詐欺師になります

「この名前になるのって、お前、それは芸名かペンネームか。

 ……偽名か?」

 そう窺うようにこちらを見てくる。

 ひいっ、とその眼光に逃げ出しかけながらも、踏みとどまった。

 結婚詐欺に持ち込むような甘い雰囲気など何処にもない。

 刑事に尋問されているかのようだ。

「ほっ、本名ですっ」

 殺されるっ、と慌てて言うと、
「お前は本名が変わるのか。
 母親が再婚したとか?」
と訊いてくる。

「そ、そんな感じですっ」
と警戒されないよう、急いで答えた。

 まあ、婚姻による改名という点では嘘ではない。

 男は、なにか胡散臭い女だな、という顔をしたあとで、溜息をつき、名刺を出してきた。

「あ、すみません。
 私、名刺持ってなくて」
と言いながら、それを受け取る。

「古島穂積……。
 古島さんっておっしゃるんですか」

 社長なんだ。
 へー、と眺めていると、

「穂積でいい」
と名刺入れを胸ポケットにしまいながら穂積は言う。

「お前のことは、茅野と呼ぶから」
「えっ」