「お茶でも飲むか?」
と溜息まじりに時計を見ながら言われたので、茅野は、はい、と頷いた。
ビルの最上階にあるスカイラウンジに行く。
おお。
真下を見ると、怖い、と横の窓を見ながら思っていると、
「ところで、お前は誰だ?」
と男に訊かれた。
まあ、もっともな問いだな、と思いながら、
「茅野と申します」
と深々と頭を下げる。
「茅野?」
自分の名前が彼の口から出ると、どきりとした。
「名字か?」
「名前です」
「名字は?」
「う。
茂野です」
咄嗟に偽名を思いつかず、思わず、本名全部名乗ってしまったっ。
結婚詐欺なのにっ、と茅野が頭を抱えたとき、
「茂野茅野?」
と言って、男は眉をひそめる。
「なんか語呂が悪いでしょ?
だから、嫌だったんですよ、この名前になるの」
とうっかり言ってしまい、更におかしな顔をされた。



