私、今から詐欺師になります

 



 なんなんだろうな、この女、と思いながら、古島穂積(こじま ほづみ)はボタンから手を離した。

 なんだかわからないが、自分を凝視している女が居ると思ったら、びっくりするような上品な美人だった。

 いや、美人というか。
 可愛いという印象の方が強い。

 品の良いワンピースを抜群のスタイルで着こなしているのだが、何処か、浮世離れした印象だ。

 エレベーターには他に誰も乗って来ず、らしくもなく、緊張してしまう。

 ちょっと息をするのにも気を使うような感じで、早く降りてくれないかな、と願っていた。

 だが、彼女は少し小首を傾げるようにして、ずっとこちらを見ている。

 迷ったのだが、勇気を出して、声をかけてみた。

「あんた、俺になにか用なのか?」

「はい。
 あのですね。

 ちょっと私と結婚していただけないかと思いまして」

 ……ちょっと事態が飲み込めないんだが。

 新手の新興宗教の勧誘か、セールスか?

 いや、そんなものとは縁遠そうな女だが、と思ったとき、彼女は言ってきた。

「あの、何処のどなたか存じませんが。
 私と結婚していただけないでしょうか?」