しょんぼりと帰っていく茅野の背中を、秀行は見送っていた。

 観葉植物の向こうに居た部下の奈良坂省吾(ならさか しょうご)が顔を覗けて笑う。

 気のいい大学の後輩で、会社を立ち上げたときにも付いてきてくれた。

「いいんですか、あんなこと言って。
 茅野さん、可哀想じゃないですか」

「あれでいいんだ。
 目が覚めるだろ。

 自分ひとりじゃ生きていけないと気がついて」
と笑う。

「……詐欺師ができないとか。
 俺から散々金引き出しておいて、よく言うよ」

 これこそ、結婚詐欺じゃねえか、と愚痴ると、
「いやあの、結婚しといて、結婚詐欺ってのもどうなんですかね」
と省吾は笑っていた。