にっこりと笑っているが自分に面倒が掛かるのはやめて欲しい、ということだろう。
「あ、念のために俺の印つけとく?」
「なんか響きがエロいっす」
すすっと、後ずさると一歩ずつ距離が詰められてしまう。
「酷くしないから」
「狙ってますか!!?」
視聴者に勘違いさせたいのかな?てか誰だ、視聴者って。
「逃げるな」
「心の準備が!」
ぶんぶんと首を振っていると片手で頬に手を当てられ、正面で顔を固定された。
まずいぞ。
「一旦ストップです!」
「精霊よ、私の祈りを受け入れ給え」
なんか始まった。お願いだから人の話を聞いてよ…
「汝の瞳は真実のみをうつせ」
瞼に押し当てられる柔らかい唇。
微かに聞こえたリップ音が顔に熱を集める。
「えっ、ちょっと…」
「耳は誘惑を断ち切り、心は凪いで信じることを忘れるな」
煌めく紫に見つめられ視線で縫い止められてしまったかのように動けない。
サラリと髪をかき分け耳に当てられる唇。
鼓膜を揺らす息づかい。
「唇は…戯言を紡ぐな」
「ハル…し、しょーー!!」
まってまって唇はアウトですよ!?
慌てて手で唇をガードする。
「ひゃっ」
手の甲にふにゃっとした感触を感じたが、ギリギリ唇は守った。
「…」
すごい目で睨まれてる…でもこれは私悪くないと思うんだ!
「に、日本人は挨拶のキスとかしないんで!」
精一杯の抵抗の意味を込めてよくわからないことを言ってみた。
「…」
「ごめんなさい」
「…」
私は悪くない…よね?
私のためにしてくれたこととはいえ困るし。
「これだからガキは」
クスッと笑い、頬から手を離し呆然としている私の頭を撫で部屋から立ち去って行った。