さよなら、世界



「話を、したくて」

 夜の十一時を過ぎて、家の中は静まり返っている。理香子さんは一階の自室でテレビを見ているはずだ。湿った空気が肌にまとわりついて、汗がにじんでくる。

「入れば」

 七都は自室のドアを開けた。

「え……」

 固まっている私を一瞥して、「話、するんだろ」と中に入ってしまう。

 おそるおそる足を踏み入れて、私は立ち尽くした。七都の部屋は私の部屋よりわずかに広い程度だった。エアコンの風に、汗ばんだ肌が冷やされていく。

「で、何?」

 七都はキャスター付きのメッシュチェアに座ると、タオルで髪を拭きはじめる。
 初めて入る男の人の部屋には、自分のものとは違う匂いがあった。

 入口脇の壁にはカバンや帽子がぶら下がり、木枠のベッドのとなりに本や雑誌が詰まったカラーボックスが置いてある。机の上にはモニターやスピーカーやモバイルゲームやヘッドフォンなんかの機器類がごちゃごちゃと積んであった。

 壁にかかった時計がカチカチと時間を進めていく。
 何か言わなければ、と思えば思うほど言葉が詰まって出てこない。いい加減苛立ってるだろうなと顔を上げたら、七都はじっと私を見ていた。

「似てんのかな」

 ぼそっとつぶやいて、彼は椅子を半回転させ顔を逸らす。

 私たちに流れる共通の血のことだと、すぐにわかった。川崎七都には刺々しさも嫌悪感も見当たらない。ただあるがままの事実を口にしただけという感じだった。

 その態度に背中を押されて、私は口を開いた。

「遊馬先輩と、話をしたの?」