川崎家で与えられた私の居場所はもともと物置だったらしく、日当たりが悪い上に、小さな窓がひとつあるだけだった。
アパートにいた頃の自室より狭いけれど、部屋をもらえるだけましかもしれない。ほかの部屋よりも壁が薄そうだし、鍵もかからないけれど、なにかあったときに逃げ込める場所があるのはありがたい。
男物みたいな無地のシャツを着てジーンズに足を突っ込み、一階に向かう。リビングのドアを開けたところで会話が耳に入った。
「七都。美味しいケーキをいただいたのよ、食べるでしょ?」
「いや、いい。俺これから出かける」
「あら、今日食べないとダメになっちゃうのに。困ったわね」
川崎七都の目が一瞬だけ私に向けられた。焦げ茶色の瞳はとても無口だ。すぐに私から視線を外し、ついでに私にぶつかるようにして廊下に出ていく。
「行ってきます」
玄関のドアが閉まると、「まったくもう、七都ったら」とため息をついて、理香子さんは白い紙の箱に入ったチーズケーキにフォークを伸ばした。左手にも食べかけのショートケーキのお皿を持っている。
ソファにもたれて口を動かしながら、彼女はテレビのチャンネルをぽちぽち変える。
ぽっちゃりしていた私の母親と違い、理香子さんは目鼻立ちがくっきりとした美人で、面立ちが川崎七都によく似ている。つりあがり気味の目はややきつい印象をもたせるけど、肌荒れさえなければ三十半ばには見えない。
その目が急に注がれて、反射的に肩が震えた。



