さよなら、世界



「ものが壊れるのは、あたりまえのことだ。いつか機能しなくなることを前提に作り出されてるんだから」

 もどかしかった。僕もだいぶ説明が下手だ。言いたいことの十分の一も伝えられていない気がする。

「だから、つまり」

 言葉を探していると、ぱっと頭の中に本の一節が浮かんだ。

「一番大切なことは、目に見えない」

 膝に顔を埋めていた彼女が、ゆっくりと僕を見る。涙は見せていなかったけれど、ひどく苦しそうな顔をしていた。いつも自信たっぷりの笑みを浮かべて前を向いている彼女からは、想像もつかない表情だ。

「いちばん、大切なこと」

 僕の言葉を彼女がどう受け止めたのかはわからない。しかし、彼女は噛み締めるように同じフレーズを繰り返した。

 膝を抱えていた彼女の手が、するりと落ちる。ふたりのあいだに無防備に放り出された白い手は、僕が想像していたよりもずっと華奢だった。

 その手に、僕は自分の右手を重ねた。しっとりとした温かさが、溶けるように伝わってくる。

 キミの、支えになりたい。

 突き上げるような衝動を胸の内でこらえていると、彼女が言った。

「私の、支えになってくれるの?」

 ぎょっとして振り返ると、彼女はかすかに笑っていた。

「口に出てたよ」

「そうか」と僕はため息をついた。

 ここにきて、心と身体の回路が正常に接続されたらしい。

 つながった手のひらに力を込めると、彼女の細い指が、ぎゅっと握り返してきた。



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