僕は彼女のとなりに腰を下ろし、青空に浮かんだ巨大な入道雲を見やる。ただの水蒸気のくせにやたらと威圧感がある。
「母の気持ちもわかるんだ。古いものを捨てて、新しくやり直したいって。でもやっぱり、いざなくなってみると急に悲しくなってさ」
僕を見て、彼女は苦笑いをする。
「ごめん。私、頭良くないから、説明が下手で」
「いや」と答えて、僕はその場に寝そべった。頭の後ろで手を組むと、桜の葉が太陽を受けてきらきらと光っている。
「話したいように話せばいいんじゃない?」
僕の声を追いかけるようにすぐ近くでセミが鳴き始める。その音をしばらく聞いて、彼女は口を開いた。
「うちの親、先週離婚したんだ」
僕を見て、「あ、でも」と慌てたように付け足す。
「そのことは別にいいの。もうずいぶん前からわかってたことだし。夫婦だからって、お互いに無理してまで一緒にいる必要はないって、理解はしてるんだ」
自分に言い聞かせるように、彼女はうなずいた。
「私は母と頑張っていこうって決めたから、それはそれでいいの。でも、あのぬいぐるみは……」
言葉が途切れる。彼女の視線の先には、真っ白な積乱雲があった。柔らかな綿を密集させたようなそれは、座り込んだ動物のぬいぐるみに見えないこともない。
「小さい頃に、父親に買ってもらったものだったから」
それから彼女は、うまくいっていたとは言い難い自分の家庭について、僕に語った。
父親が忙しい人だったこと。彼女が成長するとともに家に帰らない日も増え、最近は実質母親と二人暮らしだったこと。母親が精神的に不安定になり彼女にあたることもあったこと。



