憂鬱な雨の時期を乗り越えたご褒美というように太陽光が降り注ぐ。しかし頑張り過ぎだ。もうすこし抑え気味にしてほしい。冬生まれの僕にとって、夏の暑さは肉体的にも精神的にもつらいものがある。
わんわん響くセミの重奏にうんざりしながら桜の木を見上げた。今日はいつもより湿度が低いおかげで、日陰に入ってしまえば心地よい風を感じられる。
木の低い場所で、定められた短い命を嘆くようにセミがジージー鳴いている。それをしばらく眺めたあと、意を決して桜のコブに足をかけた。幸いセミはジジッと短い抗議の音を立て、別の場所に飛んでいった。
倉庫の屋根にのぼると先客がいた。
「なんだ、来てたんだ」
ここにいるだろうことは予想がついていたのに、気にしていたと思われたくなくて、ついそんなふうに言ってしまう。
最近の僕は、心と体の回路が断ち切れているように、ちぐはぐなことばかりしていた。本当は目で追いかけたいのにわざと視線を外したり、笑いかけたいのに面倒そうな顔をしたり。
桜が作る木陰に、彼女はぼんやりと座っていた。日差しが強くなるとともに頭の高い位置でまとめられるようになった長い黒髪が、今日は無造作に背中に垂れたままで、半袖シャツからのぞいた細い腕で膝を抱えている。
おや、と思った。いつも見たいものをまっすぐ見る強い瞳が、今日は焦点を結んでいないように思える。
「あんたも、そんな暗い顔をすることがあるんだな」
皮肉っぽく口にしてしまい、そうじゃないと自分を殴りたくなる。本当は「どうかしたの」と柔らかく尋ねたかったのに。
「母親とね、言い争いをしたの」
この数ヶ月間、彼女を見てきて気づいたことがある。
常に堂々としていて喜怒哀楽がはっきりしている彼女は、誤魔化したりためらったりすることがない。潔いけど、不器用とも言い換えられる性格をしている。そのせいで一部の女子から敬遠される一方、男女問わず憧れを抱かれやすいという一面があった。
「母親がね、私が大事にしてたぬいぐるみを、もう古いからって捨てちゃって」



