さよなら、世界



 驚いて振り返る。遊馬は目をぱちくりさせ、俺じゃないと言うように顔の前で手を振った。

 教室に視線を転じた瞬間、

「もう十分くらいこうしてるけど?」

「ごめんなさい」

 七都の焦れた声に、か細い女の子の声が重なった。

 私は遊馬と目を合わせた。ドアの陰に隠れて見えなかったけど、どうやらそこには女子生徒がいるらしい。

「川崎君は、C組の渡辺さんと、どういう関係なの?」

 姿の見えない彼女の寂しげな声に、七都は凛々しい眉をひそめる。傍らで「川崎?」と遊馬がつぶやいた。

「それをあんたに言う必要ある?」

 七都の声が冷たい。学校での爽やかな川崎七都にあるまじき態度に、私のほうがはらはらしてしまう。
 放課後の誰もいない教室でふたりきりなんて、どうみても告白場面だ。女の子が勇気を振り絞ろうとしているのだから、七都だってもっと言葉を選べばいいのに。

「わかった。そのことは聞かない。でも私は川崎君のことが――」

 彼女が自分の想いを七都に伝えている。可愛らしい声が震えていて、彼女の緊張が手に取るように伝わってくる。

 その瞬間、覚えのある感覚が訪れた。

 これまでの経験から、そろそろあれが来るかもしれないとなんとなく予感はしていた。

 視界のなかの薄汚れた壁や教室のドアや不機嫌そうな七都の姿が、真っ白くはじけ飛ぶ。

 そうして私のなかに、誰かの意識がすべりこむ――