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呼び出された職員室では、スーツやジャージを着た穴顔の人間たちが並んで事務机に座っていた。指先で少し突けば崩壊しそうな書類やファイルの山を背に、クラス担任が言う。
「大丈夫か、渡辺」
彼は足を広げて椅子に座っていた。ストライプの開襟シャツは身体を細く見せるけど、腹部のたるみは隠せていない。同じ穴顔を持つ先生と生徒を区別するには、服装と体格から判断するしかなかった。
「その、なんだ。おかしな噂が耳に入ってな」
頭を掻く仕草をする。声と服装から担任が男性だということはわかるけれど、何歳なのかは想像もつかない。声だけで年齢を類推できるほど、私は男の人に接してこなかったのだ。
「家ではうまくいってるのか?」
「はい」
即座に答える。川崎七都との関係を知っている担任は、私のことを気にかけてくれているらしい。
「大丈夫です」と答えると、先生は少しあいだをおいて言った。
「そうか。何か悩み事があれば、いつでも言いなさい」
「はい。失礼します」
頭を下げて職員室をあとにしながら、私が担任を頼ってここに来ることはないだろう、と思った。どんな表情を浮かべているのかわからない相手に、自分の心をさらけ出すことはできない。
放課後の廊下には人がいなかった。掃除当番の人もおらず、どの教室もがらんとしている。カバンを取りに自分のクラスに戻る途中、物音がして私は足を止めた。
となりのクラスだ。開いたままのドアの奥、窓のそばで男子生徒がひとり壁にもたれるように立っている。見た瞬間に川崎七都だとわかったけれど、その顔には学校でいつも浮かべている笑みがない。
立ち去ろうと思うのに、彼の横顔を見つめたまま動けなかった。真剣な表情の先に何があるのか、やたらと気になる。息を詰めてじっと様子を窺っていたら、
「あれって、彼氏?」
背後から聞こえた声に、悲鳴を上げそうになった。



