さよなら、世界



「嫌なら嫌って、はっきり言えば?」

「え……?」

 彼が振り向いた。目を怒らせ、じれたように言う。

「絡まれてたんだろ、さっきの男に」

「えっ」

「さっきのヤツ、いかにもチャラそうだったし」とつぶやく川崎七都は、学校でバリアのようにまとっている無関心さや、家の中でとる冷たい態度とは違う感情を覗かせていた。

「えっと……あの人は、そんな変な人じゃ」

 胸がドクドク鳴っている。

 まさか、絡まれてると思って、助けてくれたの?

 でも相変わらず表情がない七都は、私を心配しているようには見えない。

 それきり黙りこみ、七都は歩き出した。私からはなにも言えず、先導するように前を行く彼をただ見つめる。

 ほんの少し背を丸めて歩く彼は上背があって、遊馬よりも背中が大きい。これまでじっくり見ることがなかった男の人の背中は、女の人のそれよりも広くて、そっけない。

「どういうつもりなんだよ」

 前を向いたままのつぶやきに、反応が遅れた。

「え? なに」

「お前、なんで目ぇ引く行動ばっかとんの?」

 七都の苛立った声に、心臓が騒ぎはじめる。ため込んでいたものを溢れさせるように、彼は早口に言う。

「何のアピールなんだよ。いつもひとりで、暗い顔して。学校でも家でも辛気臭い顔してて、うっとおしいんだよお前!」

 立ち止まった彼が、ゆっくりと振り返る。怒りに満ちていると思った目は、暗く濁っていた。

「お前、どうしたいんだよ」

 絞り出すような声に、身動きがとれない。その表情には、苦悶の色さえ浮かんでいるように見えた。

 どうして、七都がそんな顔をするの。

 彼の気持ちが、まったくわからない。でも、

「ほんとお前、なんでうちに来たんだ……」

 そのせりふだけは、痛いくらい胸に突き刺さった。