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厄介な噂だった。よりにもよって、私と川崎七都が付き合っているなんて。
廊下を見回し、下校中の生徒の中に彼がいないことを確認して生徒玄関に急ぐ。
さっきはどうにかごまかせたけれど、同じ家に帰っていることがバレてしまっては元も子もない。なんのために学校で目を合わせず口を利かず、赤の他人を装ってきたのかわからなくなってしまう。
穴顔の生徒がぞくぞくと集まってくる生徒玄関を抜け、青空の下に飛び出す。
川崎七都は最近、友達としゃべりながらのんびり下校しているようだから、私が先に帰ったほうが早い。一本早い電車に乗り込めば、誰もふたりが同じ方向に帰宅することに気づかないはずだ。
追っ手を振り切る逃亡者のようにときどき後ろを振り返りながら、私は駆け足でグラウンド脇を突っ切る。生徒の背中を縫うようにして校門を抜けたとき、「あ」と声がして、後ろから腕をつかまれた。
「ミズホちゃん」
心臓が飛び上がった。振り返るとオレンジ色の髪がまっさきに目に入る。
「よかった。クラスがわかんないから、ここで待ってたんだ」
「遊馬、先輩」
倉田遊馬はスポーツメーカーのリュックを背負い、緩んだネクタイの胸元から青色のTシャツを覗かせていた。足元はローファーではなくスニーカーだ。
私たちの高校は公立のわりに校則がきびしく、髪を明るく染めているだけで生徒指導の先生に注意される。そんななか、倉田遊馬の格好はとても目立った。下校中の生徒たちがほとんど模範的な制服の着方をしているぶん、よけいに人目をひく。
「ごめん、このあいだ。俺のせいで」
倉田遊馬の顔がわずかに曇って、私は息をのんだ。
急に怖くなった。怒鳴られて引きずられて、玄関の中に押し込まれた自分を思い出して、身体がこわばる。あんな光景を見たら、誰だって変に思う。



