「瑞穂ちゃん、なにかあった?」
あまり細かいことを気にしなさそうなタイプなのに、彼女は私を見て眉をさげる。
「元気ないみたい」
「そんなことないよ」
心とは裏腹に、そう答えた。
本当は、マリの生き生きした表情を見たくなくて、休み時間はなるべく顔を合わせないように校舎をうろついたり、職員用のトイレに行ったりして時間をつぶしていた。
理香子さんの言うとおり、彼女から離れようと思ったのだ。これ以上一緒に過ごしていたら、私はいつか思いもよらないことで彼女を傷つけてしまうかもしれない。
ふいに頬をぐにっとつかまれた。横たわる私にのしかかるようにしてマリは私の頬を上下にゆさぶる。
「瑞穂ちゃん、表情筋マヒしてる? ぴくりとも動かないけど」
手を縦横にひっぱりながら、レントゲン画像を見入る医者のように真剣な表情で私を覗き込む。
「い、痛いよ」
「おかしいな。全然痛そうじゃない」
そう言って指に力を込める。それがまた容赦のないつまみかたで、私は悲鳴をあげた。
「痛いってば!」
振り払うと、マリは安心したように肩を下げた。
「あ、痛いって顔になった」
「なに、それ」
頬をさする私に「ごめんごめん」と言って、彼女はポケットから野球ボール大のアルミ箔を取り出した。
「ねえ瑞穂ちゃん、お弁当交換しない?」
「え?」
手をつけないまま放置されている私の弁当箱を見て、マリはにっこり微笑む。
「トレードしよう、トレード」
ぐいっと押し付けられたアルミ箔の中身は、海苔で巻かれた大きなおにぎりだった。大きさも、ずしりとした重さも、自分でつくっていたものに似ていてなんだか懐かしい。
食欲がまったくなかったのに、つやめく海苔の塊を見ていたらきゅるると胃が反応した。



