さよなら、世界




 となりのクラスの川崎七都(かわさき ななと)は、女子からとても人気がある。といっても、私にはスカートをはいたムンクの叫びみたいな顔の子たちが群れているようにしか見えなくて、その中心で笑顔を振りまいている彼は、かえって異様に見えた。

 彼に『顔がある』ことは、すぐにわかった。いや、もっと正確に言うなら、彼は顔を失わなかった。

 凛々しい眉も、甘やかな二重の目も、とがった鼻も、形の良い小さな唇も、もとの形のまま、バランスよく輪郭の中に収まっている。

 彼に顔が残っていて良かったのか悪かったのか、わからない。いっそ、ほかの人と同じように目も鼻も口も消えてしまっていれば、意識することもなかったのに、とまだ慣れない廊下や生徒玄関で彼を見かけるたびに思った。


 最寄駅で電車を降りて、自宅まで徒歩十五分の道のりを歩く。高校までは、電車に乗っている時間のほうが短い。

 前を行くブレザーの背中を眺めながら、投げやりに足を踏み出した。一歩、また一歩、進むたびに、身体はどんどん重くなっていく。

 私の顔も消えて見えればいいのにと、何度考えたかわからない。目も口もただの穴になってしまえば、無理に表情をつくろわなくても、心の動きを見咎められることはないのに。

「おい」

 数メートル先を歩いていた川崎七都が振り返る。険のある目が、まっすぐ私を貫いた。