美術室へ向かいながら、手ににじんでいた汗をスカートで拭う。
心の準備ができていなかったせいか、だいぶうろたえてしまった。窓側に目を向けることはあっても、廊下側を見ることはほとんどなかった。だから今まで気付かなかったのだろうか。
教室内には、もう『顔がある人』はいないと思っていた。
彼女は、目も鼻も口も、ひとつひとつのパーツが美しく、職人が綿密に計算して配置したみたいな、均整の取れた顔立ちをしていた。
黒いピンポン玉を3つ逆三角形にはめ込んだような顔ばかり見ていたから、ひさしぶりに表情のある生徒を目にして通常よりも美形に映っただけかもしれないけれど、そんなことはどっちでもいい。
彼女には顔があった。あるように私には見えた。重要なのはそれだけ。
この学校で見かけた、『顔のある人』は、彼女でふたりめだった。



