川崎七都が現れたのは、それから十数分後だった。

 太陽は西の空にとっくに消え、代わりに住宅の灯りがちらちらと遠くに浮いている。ベンチで膝を抱えながら見晴台からの景色を眺めていると、階段をのぼってくる足音が聞こえた。

「なにやってんの、お前」

 とがった声に身体がこわばる。私を見つけると、七都は問答無用で腕をつかみ、引きずるように立たせた。

「ガキじゃねえんだから自分で帰ってこいよ、面倒くせえ」

 薄暗くて表情が見えない分、声が鋭い。

 自分から家を飛び出しておいて、迎えを待つ。これじゃ親を心配させる目的で家出をする子供と同じだ。もっとも、川崎家の人が私を心配するとは思わないけれど。

「お前に何かあったら、困るのはうちなんだよ。変な噂立てられたり、昔の話を引っ張り出されたりしたらどうすんだよ」

 階段を下りながら、七都は思った通りのせりふを吐き捨てる。ただし、お互いの顔が見えないせいか、それとも怒りが強いのか、いつもより口数が多かった。

「それとも、わざとやってんのか? そうやって被害者ヅラして、俺たちをかき回そうとしてんだろ!」

 そんなことは思ってない! でも言葉にならなかった。何を言っても、何をやっても、私が彼らにとって耐え難い存在であることに、変わりはない。

 外灯が照らす薄暗い園内を、七都は泳ぐように進んでいく。少し距離をあけて歩いていたら「早くしろ」と叱られた。

 公園の入口に停めてあった自転車に七都がまたがる。彼の愛車のマウンテンバイクではなく、後ろに荷台のあるシティサイクルだ。

「乗れよ」

「え……」