「ねえ、なんであんたは生まれてきたの? どうして今になって私を苦しめるの?」
理香子さんの左目から涙が溢れる。
「なんでここにいるの? どうして生きてるのよ!」
私を揺さぶって、叩いて、鋭利な言葉を吐き出す。
「消えて! 私の目の前から! いますぐ消えてちょうだい!」
廊下にへたり込む彼女から目をそらし、私は脱いだばかりの靴に足を差し込んだ。そのまま、玄関のドアを開く。
目の前に人が立っていて、ぶつかりそうになった。
「七都、くん」
いつからそこにいたのだろうか。彼の目は、驚きに見開かれることもなく、静かに冷え切っていた。
優しい言葉をかけてもらえるとは思っていなかったけれど、今は氷のような目線もこたえる。
川崎七都の横をすり抜け、私は表に出た。
もし今頭上から俯瞰して見たら、川崎家から異物が吐き出されたところが見えるのだろう。
それはとても、自然なことのように思えた。



