扉が閉じたとたん、外の光がさえぎられ、玄関に薄闇がおりる。廊下を進んでいく理香子さんの赤いワンピースがゆらめく炎を思わせた。
「なんなのよ」
ぽつりと落ちた声に、私は靴を揃えていた手を止めた。重そうな紙袋が、どさっと床に落ちる。新品の洋服がたくさんこぼれ出す。
「なんであんた、ここにいるのよ」
理香子さんが玄関に引き返してくる。眉間に皺を寄せ、目に怒りをにじませ、私の肩を掴んで、激しく揺さぶった。
「どうしてよ!」
足がすくんだ。肩に爪が食い込んで、痛い。
「ねえ、幼稚園で習わなかった? 人のものを盗ったらいけませんよって。犯罪ですよって。ねえ、習ったわよね? 人が社会に出て一番最初に学ぶことよね?」
「理、香子さ」
「ひとの名前を呼ばないでよ、汚らわしい!」
打たれた衝撃で、壁にぶつかった。右の頬がじんじん痛んでいる。目を向けると、理香子さんはいっそう目をつり上げた。
「なによその目。悪いのはあんたの母親でしょ。恨むんなら自分の母親を恨みなさいよ! 人の夫を盗んだ売女を!」
真っ赤な紅を塗られた唇が生き物のようにうごめいる。グロテスクだった。いまにも私の首に噛み付いてきそうだ。そのまま血を吸い上げて、私の体から一滴残らず消し去ってくれればいい。
そう思っても、理香子さんは眉を歪めて私を見おろすだけだ。



