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顔は、人間の身体のなかで一番印象に残る部位だ。
整っていればもてはやされるし、歪んでいれば不快に思われることもある。スタイルだってもちろん個性をあらわす大きな要素だけど、個人を特定する上で最初に目が行くのは、やっぱり顔の造りだと思う。
それを区別できなくなった私は、さながら世界からはじき出された異物だ。
クラスメイトと同じ教室にいても、担任がなにか面白い話をしていても、笑ったり、驚いたりという感情を、誰とも共有することができない。
透明なケースに閉じ込められているのは、彼らではなく、私のほうなのかもしれない。
「昨日の人、なんだったんだろうね」
隣の席でマリが鼻の下にペンをはさんで唇を突き出している。整った顔を惜しげもなく崩す彼女は、私のこわばった気持ちを音もなく溶かす。
そこに表情があるだけで、どうしてこうも気持ちは落ち着くのだろうと、不思議だった。
「サルみたいだった。ていうかサルなのかしら」



