さよなら、世界



 飛び散ったスクランブルエッグやらブロッコリーやらを見回して、私のお弁当箱で視線を留める。青ざめた顔が、ゆっくり持ち上がった。黒目がちな目が潤んでいて仔犬みたいだ。

「も……もしかしてコレ、俺のせい?」

 震えた指先で、スニーカーについたマヨネーズをさす。私がうなずくと、彼は「うわあ」とこの世の終わりみたいな顔をした。

「ごめん! 弁償……ていうか、代わりの昼メシ代、って俺、今月金欠だったんだ。うわーどうしよ」

 ポケットをあちこちまさぐって「あった!」と声を上げる。

「これでパンでも」

 そう言って取り出したのは一枚の十円玉だ。

「……えっと、大丈夫です」

 遠慮すると、彼は頭を抱えた。

「ほんっと、ごめん!」

「いえ、あの、本当に大丈夫なんで」

「おーい、遊馬(あすま)! 何してんだよ、置いてくぞー」

 二階の窓から低い声が落ちてくる。遊馬と呼ばれた彼が、上を向いて声を張り上げた。

「あー待って、今行く!」

 靴紐を手早く結び直し、彼は私を見る。

「俺、二年A組の倉田遊馬(くらた あすま)。今度メシ代返すから」

「え、いえ、ほんとに――」

 大丈夫と言いかけて、声を呑んだ。