今考えると、人々から顔が消え失せたのはそのころからだったのかもしれない。
春休みはほとんど家の中で過ごしていたから、川崎家の人たち以外と顔を会わせる機会が少なかった。私がようやく事態の異様さに気がついたのは、高校に入学してからだ。
昔から人の顔を覚えることは得意だったし、最近どこかに頭をぶつけた覚えもない。人の顔が穴に見える病気、と携帯で検索しても私にあてはまりそうな症状は出てこなかった。
そして思い至った。きっともっと単純なことなのだと。
私は、母の罪を背負っている。
川崎家の人以外の顔がわからなくなったのは、おそらく代償だ。
誤ってこの世に生まれ落ちてしまった私は、誰かと特別な関係を築く資格がない。だから、人の顔が区別できなくなった。そう考えると、すべての辻褄があうような気がした。
「うわ、やべ」
ふいに頭上で声がした。
「え」
顔を上げる間もなく、何か重いものが膝にあたって、私は悲鳴を上げた。
見ると、すぐそばに上靴のスニーカーが片方落ちている。どこからか落下してきたそれは、私のお弁当を直撃し、おかずを飛び散らして転がった。



