私には父親がいなかった。いないと聞かされて育ってきた。小学生のときに亡くなった祖母も、父親については口にしたことがない。
『お母さんが、瑞穂のお父さんでもあるの』
母の言葉を素直に飲み込んで、そういうものなのかと納得していた。
私にとって、父親がいないことは当たり前で、母とのふたり暮らしが日常で、少なくとも私は、父親がいないことに不便を感じたり不安を感じたりすることはなかった。
だから母が死んで、父親だという男性が現れたとき、当惑しかなかった。
『なんで言わなかったんだ……』
母の遺影の前で声を震わせていた彼は、優しそうな人だったけれど、それだけだった。
身寄りのない私を引き取ってくれたことには感謝をしている。
でも、私の本当の居場所は、とっくに失われていた。生まれた瞬間から、私は未来を託された子供ではなく、死を望まれた存在だったらしい。
『ねえ、なんであんたは生まれてきたの?』
人のものを奪って、誰かをひどく傷つけたのなら、償わなければならない。
理香子さんに見つめられるたび、私は心臓に杭を打ち込まれる。
母親の母校でもあったこの高校の合格発表があったその日、母は仕事先に向かう途中、居眠り運転のトラックに轢かれて亡くなった。
葬儀のあとに父親と名乗る人が現れ、私は川崎家に引き取られることになり、そこで自分がこの世に生まれてきてはいけない子どもだったことを知ったのだ。



