「若者はもっと日光に当たらんといかんよ!」
「……渡辺さん、歯にノリがついてるよ」
「マリでいいよ。瑞穂ちゃんだって渡辺でしょ」
もごもごと口をうごめかし、彼女は歯磨き粉のコマーシャルみたいにイーっと横に開いた。目を必要以上に見開いているから、美少女が台無しだ。
「う、うん、取れたよ」
笑いをこらえながら言うと、彼女は嬉しそうにまたおにぎりにかぶりついた。
朝食の残り物を詰めたお弁当をつつきながら、頑なに日差しを浴び続ける彼女を見る。しゃべっていないときでも、マリの表情はよく動いた。白米のあいだから具材が現れるたびに、目と口と頬を忙しく動かして驚きと喜びを顔全体で表現する。
「うちも、よくそういうおにぎり作ってた」
彼女の視線を感じながら、私はウインナーにフォークを突き刺す。
「明太子と高菜とツナマヨが定番で、ときどき唐揚げを入れたりして」
忙しい母親だったから、いろんな味が一度に楽しめるうえに手早く食べられて洗い物も出ない巨大おにぎりは、彼女のお気に入りだった。
「いまは作らないの?」
「え?」
「作ってたって、過去形だったから」
「作る相手が……いなくなったから」
マリの涼しげな目は、彼女のそれによく似ている。パズルのピースがひとつずつはまっていくみたいに、消し去ろうとしていた記憶が像を結び始めて、息が苦しくなっていく。



