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瑞穂ちゃん、と声がして、我にかえった。廊下のざわめきが、一瞬で押し寄せる。
窓の向こうで渡辺マリコが不思議そうに私を見ていた。
「大丈夫?」
「え……」
どうやら、手にランチバッグを持ったまま固まっていたようだ。長い時間が経過したように思うのに、一瞬の出来事だったらしい。
なに、今の。
頭を押さえると、こめかみがわずかに熱を持っている。
やけにはっきりした映像だった。映画のシーンが直接頭の中に流れたように臨場感があって、否応無しに主人公に感情移入させられた。
心臓がばくばく鳴っている。映像の中で『僕』が抱いた緊張感と微かな胸の痺れが、そのまま私の身体に残っている。
乗り越えたフェンスと、薄汚れた校舎の壁。流れた景色は覚えているのに、登場人物の顔ははっきりとは思い出せなかった。
夢をみている最中は人も世界もくっきり映っているのに、目が覚めた途端すべてを忘れてしまうような、そんな感覚だ。
本当に、夢でもみたのだろうか。



