「え、きも」
そそくさと通り過ぎようとする僕に、「ちょっと」と声がかかる。
「見て見ぬふりするつもり? うら若き乙女が困ってたら、助けるのが男ってものじゃないの!?」
いきなり個人の価値観を押し付けられてうんざりしたが、彼女の声はほどよい高さで澄んでいて、好みの音だった。声までもタイプ、というべきか。
「困ってんの?」
僕が訊くと、彼女は長い髪を振り乱し、両手で壁に手をついた。
「困ってるのよ! 腰がつかえて抜けないの!」
どうやら彼女は小さな窓から外に出ようとして、途中で引っかかってしまったらしい。
「なんでそんな状況になるんだ……」
彼女の腕を力いっぱい引っ張ると、女子生徒は「いたたた」と整った顔を歪める。
見た感じ、跳ね上げ式の窓はたしかに小さいが、彼女ならぎりぎり通り抜けられそうだ。
「なにか引っかかってるんじゃない? ポケットに物を入れてるとか」
「あ、携帯」
思いついたように腰をずらし、彼女はわずかな隙間に右手を押し込んだ。左手と上半身だけが空中に浮かんでますます奇妙な姿になったが、彼女は眉間に皺を寄せながら、懸命に右手を動かしている
「取れた!」
いたた、と片目をつぶりながら右手を抜き出す。その手には白い筐体が握られている。
「じゃあ、引っ張るよ。ちょっとごめん」
僕は彼女の下に回り込み、小さい子を抱え上げる父親みたいに、脇の下に手を入れた。



