「言ったじゃない。昔は可愛かったのよって。出産してからだいぶ太っちゃったけど」
「私のせいみたいな言い方」
「瑞穂ちゃんのせいじゃないよ」
優しい声はとても若いけど、根底にある声の種類や凛とした響きにはたしかに覚えがある。
「私を助けるために、出てきてくれたの?」
喉の痛みをこらえながら言うと、透き通った顔がふるふると首を振った。
「私をつくりだしたのは瑞穂ちゃんだよ」
わかってるでしょう、と目を細める。
「私は幽霊じゃないの。ただの記憶。この学校やユキハルや理香子ちゃん、それからあなたの中に残っている、ただの記憶のあつまり」
「そして、私に白昼夢や夢を見させたんでしょう?」
いつかお弁当の代わりにマリからもらったのは、私の記憶のなかのおにぎりだった。私が食べたのは、記憶そのものだったのだ。そんなの、懐かしいに決まってる。
彼女はふっと微笑んだ。
校舎のいたるところで私の中に滑り込んできた白昼夢は、意識が戻ったとたん『僕』や『彼女』の顔をぼかしたけれど、雪春さんや理香子さんの記憶に触れたせいか、今は鮮明に描くことができる。
目の前の彼女は、白昼夢の『彼女』と同じ顔で、優しく笑っている。
「マリちゃん……消えちゃうの?」
透き通っていた身体が、今はもううっすらとしか見えない。そこにいたはずの彼女は、少しずつ空気に溶け出しているようだった。
「言ったでしょう? 私をつくりだしたのは瑞穂ちゃんなの。だから、消すのもあなた」
「だったら消えないで! 私はまだ消えてほしくない!」
優しげに微笑む彼女に手を伸ばした。指先が歪んだ空間を素通りして空を掻く。
胸がつぶれそうだ。そこに見えているのに、私の手は届かない。
瑞穂ちゃん、と彼女は優しく私を呼ぶ。



