「まったく、しょうがないなぁ、瑞穂ちゃんは」
目を向けると、開いた窓の外に彼女が立っていた。ぱっつん前髪の整った目鼻立ちが見えて、ほっと吐息が漏れる。ちゃんと、顔がある。
「終業式、始まっちゃうじゃない」
「マリちゃんだって」
彼女は表情を崩して、くるりと背を向けた。スカートが翻って、白い太ももが見える。
「私はいいの」
そう言って、彼女はすたすたと歩き出す。はっとした。彼女の背中が、少しずつ透けている。
「マリちゃん!」
呼びかけても彼女は止まらない。そのまま裏庭の奥まで歩いていこうとする。
私はとっさに足を踏み出した。リノリウムの床を蹴って勢いをつけ、片足で踏み切る。両手で窓枠をつかみ、両方の足を浮かせる。手でしっかりと窓枠を押して片足ずつ着地し、そのままの勢いで芝生の上を走った。
振り返ったマリが、驚いたように目を丸めている。
「わあ、瑞穂ちゃんが飛んだ! かっこいい!」
追いつくと、彼女は嬉しそうに破顔した。その顔も透き通って、向こう側の木がうっすら見えている。
「マリちゃん……どこに行くの」
息を弾ませながら言う私に、彼女は微笑んだまま答えない。私は彼女と最初に言葉を交わしたときのことを思い出した。
『私、渡辺マリコ。よろしく』
切れ長の大きな目に光をたくさん映して、はきはきと言ったとなりの席の女の子。顔のない教室に馴染めずにいた私を、眩しい笑顔で照らしてくれた彼女。
「……全然、気付かなかった。同じ名前だって、思ったのに」
声が震えて、私はいったん言葉を切った。喉が小刻みに震える。
「だって、そんなに美人なんだもん……」
彼女はいたずらっぽく笑った。



