さよなら、世界



「え? そこはずっと一席ないけど」

「うそ、そんなはずない」

 だって、私は彼女とずっといっしょにいたんだから。

「え、ちょっと、渡辺さん?」

 男子生徒の声を無視して、私は教室を飛び出した。

 登校してくる生徒たちを押しのけるようにして裏庭に向かう。体当たりをする勢いの私を、穴顔の生徒たちが迷惑そうに振り返る。

 降り注ぐセミの声を聞きながら、私は桜の幹に手をかけた。いつもの手順で屋根までのぼったものの、木漏れ日が揺れているだけで、人の姿はない。
 すぐさま引き返して、ふたりでお弁当を食べた場所に向かう。でもそこにもいなかった。

 ふたりで油絵のモチーフを探し歩いた廊下にも、私が転がり落ちた階段にも、二年の廊下にまで捜しに行ったけれど、マリの姿はどこにもない。

 いつのまにかチャイムが鳴って、生徒たちがぞろぞろと体育館に移動し始めた。ひとりだけまったく違う動きをしている私は、穴顔たちの注目の的だ。それでもまったく気にならない。

 彼らに目があろうがなかろうが関係なかった。今の私は、ひとつのことで頭がいっぱいだった。

 裏庭、倉庫の屋根、廊下、ともう一度回ってから、私は無人の教室に戻る。すでに鍵がかけられていて、中には入れなかった。ドアのガラスに顔を押し付けてのぞいたけれど、やっぱりマリの席はない。

「なんで、いないの?」

 記憶のなかの彼女の顔が溶けかかって、もうほとんど思い出せなくなっていた。叫び出したい衝動に駆られたとき、聞き覚えのある声が聞こえた。