さよなら、世界



 電車に乗り込むと、同じ制服を着た穴顔の生徒たちがあちこちで談笑していた。つり革につかまりながら、七都が私を見下ろす。

「お前も、いい加減友達つくれよ。一学期が終わるじゃねーか」

 上から見下ろしたような口調にちょっとムッとした。

「いるよ、友達。隣の席の子。その子とずっと一緒にいるもん」

 彼は思い切り顔をしかめた。

「はあ? お前、いっつもひとりじゃん。廊下でぶつぶつ独りごと言ったり、裏庭でひとりで飯食ってたり。寂しいアピールがひどくて正直イラついてた」

「え、ちょっと待ってよ。私、いつもマリと」

 ふいに蒸し暑かった昨夜の記憶がよみがえった。

 花火から帰ってきた私を、待っていたように佇んでいた彼女。
 私の髪を優しく撫でて、「おやすみ」と言ってくれたマリ。

 不思議なことに、その顔がぼんやりとしか思い出せない。

 まって、まってまって。そんなはずない。だって彼女の言葉ははっきりと覚えている。それなのに、彼女の顔は霞がかかって笑った顔を描けない。

『私は瑞穂ちゃんのこと、ちゃんと信じてるから』

 すうっと、背中を冷たいものがおりていく。

 電車のドアが開いたと同時に、私は駆け出した。「あ、おい」という七都の声を背中に聞いて、学校までの道のりを全力で走った。

 C組の教室に飛び込んだ私は目を疑った。そこにあるべきものがない。私のとなりにあったはずの机が、跡形もなく消えている。そこには最初からなにもなかったかのように、一人分の空白ができていた。

 私は前の席の男子生徒の背中を叩いた。今まで一度も話したことのない彼が、びくりと身体を震わせて振り返る。

「ねえ、そこにあった席、知らない?」

 穴顔の彼は、首を傾げた。