「ほら、この子をよく見なさい。君が無理に守ろうとしなくても、まっすぐ愛情を受けて育ってるように見えないか」
理香子さんと目が合った。片方だけ、涙に滲んで真っ赤だ。
ああそうか、と私はようやく気づいた。
理香子さんは、私の母親がたどった人生を憂えているのだ。
高校を卒業したあとにひとりで私を産んで、どんなふうに生きていたのか。つらい生活を強いられていたのではないかと。
私につらくあたった理由も、罪悪感の根源も、すべてはここにあった。
彼女は私の母親を恐れ、危ぶみ、一方で憎しみに変わるほどの情愛を抱いていたのだ。
「私、渡辺先輩に、ひどいことを」
理香子さんの声が震えて、私はとっさに口を開いた。意味がないと思っていた十五年間を引っ掻き回して、言葉を選び出す。
「私は渡辺瑞穂です。母じゃ……渡辺真理子じゃない」
はっきりと口にする。
雪春さんが、メガネの奥の目を嬉しそうに崩した。
「ほら理香子。この子を見ればわかるだろ。真理子はちゃんと、幸せに生きてたんだよ」



