「そうしたら、今度はこの子が、外に出ていこうとするから。だめよ、だって、外に出たら傷つくもの。変な目でみられて、私みたいに傷つく。だったら外になんてでない方がいいの」
「君の気持ちはわかるよ。瑞穂を守ろうとしたんだね」
聞き取れないほど小さなつぶやきを、雪春さんが拾い上げる。七都が私を見て、喉を震わせた。
「守ろうとしたって……」
理香子さんは私を守ろうとした? 私を閉じ込めることで?
支離滅裂だ。なにを言っているのか半分もわからない。それでも、雪春さんは彼女の訴えを汲み取る。
「理香子。誰も君のことを恨んでなんかいない」
ぐにゃぐにゃにねじまがった理香子さんの気持ちを、守らなきゃと言いながら狂気に向かった彼女の心を、まっすぐに正す。
「君はちゃんと母親をやってたじゃないか。気持ちを落ち着ければ、また本来の君に戻れるよ」
本来の、理香子さん。
思い浮かぶのは、雪春さんが月に一度帰宅したときの光景だ。
瑞穂、と私の名前を優しげに呼んで、コーヒーを淹れてくれたり、並んでキッチンに立ったり、みんなで一緒に出かけたり。そのときだけは理香子さんは七都や雪春さんと分け隔てなく私に接していた。
私には芝居がかって見えていたけれど、まさか、あのときの理香子さんのほうが、本来の彼女だというのだろうか。
ふいに肩をつかまれた。理香子さんが、涙に濡れた顔で私を見る。
「ごめんなさい。ごめんなさい。渡辺先輩。ごめんなさい」
「え……」
私を見ているようで、彼女は私の中の別のものに語りかけていた。苦しげにあえぎながら、何度も「ごめんなさい」を繰り返す。必死の形相に射抜かれて、身体がこわばる。



