うなだれる理香子さんの前髪をかきあげて、彼は真正面から彼女の瞳を覗き込んだ。涙に濡れた左目が揺れている。
「理香子。君はそんなふうに過去にとらわれるために、この子を預かることにしたのか?」
「え」と声を上げたのは、七都だった。雪春さんが私を振り返る。
「君を引き取ろうと言いだしたのは、理香子なんだよ」
ぐらりと視界が歪んだような気がした。言われた言葉を頭では理解できても、心で納得できない。理香子さんが私を引き取ろうと決めたなんて、信じられない。
「君の母親がいなくなってから、理香子は自分を責め続けていてね」
私に悲しげな表情を見せ、雪春さんは理香子さんの背中を優しく叩いた。
「瑞穂を迎え入れることが、償いのつもりだったんだろ?」
「うう」と声にならない声を上げて、理香子さんは肩をひどく震わせた。きっと彼女の頭の中では「怒り」と「嘆き」がごちゃごちゃになっているのだ。それとも、そのほかの感情もあったのだろうか。
「その子をちゃんと受け入れようと思ったの。でも七都に嫉妬させたくなかった。だから、この家では七都のほうがお兄ちゃんなのよって、優先なのよって、教えるつもりで。そしたら瑞穂の目が、急に怖くなって。あの人の目に重なって」
切れ切れに落ちる言葉は、私を素通りして七都に突き刺さったようだった。目を見開いて、彼は自分の母親を凝視している。理香子さんは父親にしがみつきながら、いやいやをするように首を振った。
「見ないで、こわい。私を恨んでるんだわ。だって、悪いのは、悪いのは、私じゃない。あなたのほうじゃない。私にないものを、持ってたからじゃない」
彼女が身じろぎをするたびに、肩で切り揃えられた黒髪がさらさら揺れる。艶やかな髪を雪春さんが撫でる。



