――私の右目、なくなったんです。
眼帯の女の子が言う。感情の揺れを感じさせない静かな声だ。その静けさが、よりいっそう絶望を深めている。人の心の裏を敏感に読み取る『僕』は、呆然と立ち尽くしている。
――責めているわけじゃありません。
女の子はぱっちりとした左目でまっすぐ彼を見る。『僕』は黙ったままだった。手を差し出すことも、逃げ出すこともできないまま。
――でも一度だけ。私のものになってくれませんか、雪春先輩。
容姿が整っているだけに、眼帯姿が痛々しい。でも単純な美しさを欠いたことで、彼女は凄みを帯び、絡め取るような魅力を放っていた。
小さな身体に負った傷は、一生消えない。ますます迫力を増した理香子さんの妖しげな美しさと、底知れない罪悪感に、『僕』の心はかき乱れる。
――……わかった。
それは『彼女』には内緒で交わされた約束だった。理香子さんと『僕』の、一度きりの約束。
だけど『僕』は秘密に耐えられなかった。二重に膨れ上がって心を締め付ける罪悪感に、打ち勝つことができなかった。そして彼は『彼女』に理香子さんとの関係を打ち明けた。
「瑞穂の母親は、それを許した」
マイクの音声のように、七都の声が頭に響く。
現実の世界では、窒息しそうな重苦しい空気が充満していた。理香子さんの息遣いが荒い。息子が声を詰まらせながら、母親の過去をあばく――。
「母さんに子どもができたことを知って、彼女は消えた。けど、そのときにはもう瑞穂だって……」
ざあっと、頭の中を風が吹き抜けた気がした。知りたくても知り得なかった過去の出来事が、泡のように次々と弾けて飛び出してくる。
「お前の母親は、なにも悪くねえよ」
彼の背中に付けられた傷跡がくっきりと浮かび上がる。その痛ましい表情には覚えがった。親の罪を背負った、子どもの――
「やめて、やめて」と理香子さんは小さく繰り返している。それを見て、七都は苦しげにうめいた。
「悪いのは全部――」



