理香子さんは私を掴んだまま固まった。手の震えが直に伝わってくる。きつく握られているのは手首なのに、肺をわしづかみにされているみたいだ。
張り詰めた空気に身動きがとれない。
「恋人の存在を知ってたくせに、親父を脅迫して、自分のものにして……」
過去を語る七都の口が、歪んで見える。思いもよらない言葉に頭がぐらぐらする。脅迫……?
ぼそり、と理香子さんが何かを言った。怯えたような目で、すがりつくように私の手をつかんで、もう一度つぶやく。「やめて」と言ったように聞こえた。
「瑞穂の母親が消えたのだって、責任感じて身を引いたんだろ。彼女は何も悪くなかったのに!」
私は立ち尽くした。口の中で七都のせりふを繰り返す。私の母親が、消えた? 身を引いた?
呆然としている私を見て、七都は苦しげに眉根を寄せる。
「母さんが親父を欲しがったから、お前の母親は、高校卒業と同時に親父の前から姿を消したんだよ」
「まって……」
よくわからない。頭の中がぐちゃぐちゃになってる。
「親父は罪悪感に苛まれてた。自分のせいで右目を失わせたって。だから、要求を飲んだ。飲まざるを得なかった」
その瞬間、閃光が走り抜けるように、脳内に眼帯をつけた女の子が思い浮かんだ。
残された左の目は甘やかな二重まぶたで、鼻は形よく隆起している。顔立ちが七都にそっくりだ。
今、はっきりとわかる。今朝の夢に出てきた彼女は、高校生の頃の理香子さんだったのだ。
頭の中に映像が流れはじめた。一連の夢と同じ世界観で、校舎の一角が映し出される。今度は、私は登場人物の誰でもなかった。観客席から舞台を見ているみたいに、彼らを遠くから眺めている。



