父親がいないときには食卓に着かせてもらえないのに、今日に限って理香子さんはテーブルに私のぶんの朝食を用意してくれていた。夕べ出かけたことには気づいていないようで、鼻歌を歌っている。
彼女の感情を乱さないように、息を詰めながらパンを口に押し込んだ。それでも気が付くと彼女の右目に視線が向かっている。やっぱり、気をつけて見ないと義眼だとはわからない。
精巧なつくりに目を奪われていると、彼女の左目と視線がぶつかった。
「なに?」
「なんでもない、です」
私はあわてて牛乳の入ったコーヒーを喉に流し込んだ。正面で、七都がなにか言いたそうに私を見ている。
「そうそう、瑞穂。あんた着替えてるけど、学校に行く気?」
「え……」
理香子さんがにっと笑う。目が見開かれていて、背筋が寒くなるような笑い方だった。
「行かせないわよ。終業式なんて出なくたっていいじゃない。ううん、学校になんて、もう行く必要はないわ」
言われた意味がわからなかった。
「え、あの」
「あんたはやっぱり、外に出ちゃダメな子なのよ」
理香子さんの目が据わっている。いきなり腕を掴まれて、持っていたカップがテーブルに落ちた。濁った液体が広がり、ぽたぽたと床を汚す。
理香子さんは私を見たままだった。こぼれていることに気づいていないように、スリッパで茶色い水たまりを踏みつける。
「食べ終わったんなら、部屋に戻るのよ」
「ま、まってください。私は」
「ほら、はやく!」
彼女の叫びに、条件反射のように身体がすくんだ。
七都は席に着いたまま、こぼれたコーヒーの海を見ていた。その冷めた視線にどきりとする。シャッターを下ろして、見たくないものをシャットアウトして、感情を殺しているような目だ。



