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目が覚めた瞬間から、呼吸が早かった。シーツが汗で湿っている。身体を起こし、右手で額を押さえる。
今の夢は……。
はっとしてあたりを見回した。閉じたドアも開けっ放しの窓も昨夜と同じだ。ただ、そこにいたはずのマリの姿がない。窓を覆うカーテンがわずかに揺らいでいた。私が眠ったあとで帰ったのだろうか。
私は目を閉じた。心臓の鼓動を落ち着けるように、深く息を吐き出す。
頭の奥がじんじん痺れている。夢のなかで女の子が抱えていた息苦しさ、言葉では表せないほどの強い憧れ、気持ちが黒く濁っていく薄気味悪さ、そして、机の角に顔をぶつけた感触――。
そこにあることを確かめるように、私はそっと右目を押さえる。すべては生々しく、私の意識に残っている。
「この、夢は……」
私の脳が作り出したただの幻覚だとは思えなかった。だってこれは続きだ。
あの白昼夢の主人公、どこか冷めている『僕』を、別の視点から見た世界。そこに流れる時間や空間は、まったく同じものだった。
すべては繋がっている。『僕』は『彼女』と出会い、絆を深め、関係を結び、そして、別の女の子の右目が傷つく。
これは……私が知りたかった過去なのだろうか。
私の母親と、父親と、理香子さんとのあいだに起きた、痛ましい事故なのだろうか。
頭がくらくらする。
携帯のアラームが鳴って、私はのろのろとベッドを立った。
とにかく学校に行こう。今ここであれこれ考えていても、きっと思考はまとまらない。
マリのくるくる変わる表情や、遊馬の優しい笑みを見て、気持ちを落ち着けたい。過去にとらわれているこの家から出て、外の空気を吸いたい。
今日は終業式だ。午前で終わりだから、考える時間はきっとたくさんある。
ハンガーに吊るしてあった制服に着替えて、ドアの鍵が開けられるのを待った。しばらくして現れたのは七都だった。
「朝飯、下で食えって」



