これまで順風満帆な人生だった。

 大人が聞いたら、十六年しか生きてないくせに何を言ってるんだと笑いそうだけど、実際にそうなのだ。

 それなりに裕福な家庭に生まれ、欲しいものはなんでも手に入れることができたし、外見も恵まれているせいか、親からも周りからも可愛いと愛されながら育ってきた。

 それなのに、私の心は空っぽだ。おもちゃもお菓子も、愛情ですら、欲しがる前に与えられてしまった私には、渇望するほど手に入れたいと思うものがない。

 無欲、無感情、無気力。私のなかにあるのは『無』ばかりで、表面上は友達と笑い合っていても、心が満たされることはなかった。

 毎日がつまらない。そんな思いで高校に通っていたある日、あのふたりを見たのだ。

 最初は下校途中のグラウンド脇で。その次は一階の渡り廊下で。彼らはいつも私の視界に飛び込んできた。全校集会の体育館でも、生徒で賑わう生徒玄関でも。

 リボンとネクタイ、そして上靴のラインカラーから、ふたりが上級生であることはわかっていた。

 微笑み合い、静かに視線を交わす彼らは、それだけで世界が完結していた。お互いが足りないものを補い合い、尊敬しあい、喜びに満たされている。

 それは強烈な幸福感だった。私が持っていないもの。ひとりでは、手に入れられないもの。

 あれが、欲しい。

 それはたぶん、私が感じた、最初で最後の強い渇きだった。