花火の音が消えて、あたりには静かな闇が広がっている。窓の外にはいつのまにか月が見えていた。月明かりを背負うように、彼女は窓際に立っている。

「マリちゃん……?」

 制服姿の彼女は、にこっと表情を崩した。

「やっほ、瑞穂ちゃん。やっぱり来ちゃった」

「え、なんで、どこから」

 言いかけて、カーテンがわずかに揺れていることに気づく。

「まさか、窓から?」

 にこりと笑って、彼女は近づいてくる。

「花火、見れた?」

「うん、マリちゃんは、どうして」

「なんか急に、瑞穂ちゃんに会いたくなって」

 そう言ってから、声を落とす。

「なんだか、心配になって」

 風が吹き抜けた気がした。ひとつきりの窓は、風を呼びこむはずがないのに。

 制服姿のままのマリは、家に帰らなかったのだろうか。もしかすると、彼女にも、人には言えない悩みがあるのかもしれないと思った。だからこそ、私が抱えている後ろ暗さを敏感に察知する。

 何かに思い悩むなんて強い彼女からは想像もつかないけれど、私はもう、見えるものがすべてだとは思わない。

 月明かりに、マリは青白く浮き上がる。

「瑞穂ちゃん。顔は見えるようになった?」

 いつだか彼女に話したことがある。顔が見えなくなった女の子の話だ。

「私のことだって……気付いてたの?」

 見抜かれていると思った。きっと彼女には、私の心の揺れがすべて伝わっている。その証拠に、いつもハツラツとしている彼女の表情が、さっきから優しい。

 私はベッドに腰を下ろし、首を振った。公園の見晴台にいたカップルたちも、自転車ですれ違った花火帰りの親子連れも、みんな揃って穴顔だった。

「私、ダメなんだ」

 やっぱり、信じることが恐い。

 気持ちは少しずつほどけて、遊馬や七都と繋がれたような気になっていたけれど、私の根底にある不信感はぬぐえていない。