遠くで花火の音が聞こえていた。
遊馬は、約束をやぶった私に呆れているだろうか。それとも、私のことなんか気にせず、ほかの誰かと花火を見ているだろうか。
「ミズホちゃん」
声が聞こえた気がして、ベッドで寝返りをうった。あまりに思いつめて幻聴が聞こえたのかもしれない。
「ミズホちゃん」
もう一度聞こえて、はっと身体を起こす。開いた窓に、しゃがみこむ人間のシルエットが映る。
「遊、馬?」
立ち上がって窓に近づくと、夜のわずかな明かりを背負って倉田遊馬が佇んでいた。
「どうして、ここに」
「行こう、ミズホちゃん」
彼が手を差し出す。
「まだ最後のスターマインに間に合うから」
「でも私……」
「大丈夫、ここから出れば気づかれない」
遊馬は後ろを振り返る。窓の下には一階の屋根が張り出していた。どうやらとなりの家の塀から屋根によじ登ってここまで来たらしい。パルクールをたしなむ彼なら朝飯前だったに違いない。でも。
「私は……、靴だってないし」
背後からカチャリと音が聞こえて、身体がこわばった。
「か、隠れて」
小声で言ってカーテンを引いた直後、ドアが開かれた。間一髪振り向いた私は、そこに立つ人物に目を丸める。
「しっ」と人差し指を立てて、七都が背後を気にしながら部屋に入ってきた。その手には私のスニーカーを持っている。
「え……どうして」
「母さんが今、雑誌持って風呂に入ったから一時間は出てこない」
私にスニーカーを押し付けて、「はやく」と肩を押す。
「待って、なんでふたり」
遊馬と七都を交互に見やると、七都が携帯を私に差し出した。
「悪いけどお前の携帯、勝手に触らせてもらった。ずっと鳴っててうるさかったし」
「突然男の声が出たから、こっちは相当びびったけどね」
面倒そうに眉を歪める七都と、笑顔なのにどこかこわばった顔の遊馬。ふたりのあいだに、どことなく火花が散っているような気がした。全然違うタイプのふたりは、もしかして相性がよくないのだろうか。



