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その夜、夕飯を持ってきてくれたのは理香子さんだった。
予定を延期したらしく、出かける気配はまったくない。トイレとお風呂に入らせてくれたけれど、またすぐにドアを閉じられてしまった。きっと花火大会が終わるまで、ここから出してはもらえないのだろう。
窓の外はすっかり暗い。携帯もカバンもリビングに置きっぱなしだった。遊馬と連絡を取ることもできず、彼を待ちぼうけさせてしまったことが心苦しかった。自分から誘っておいてドタキャンするなんて、きっと私に幻滅してる。
電気もつけず、ベッドに横たわった。シャワーに入ったのに肌がべとべとする。夜になっても蒸し暑い。ひとつきりの窓をあけたところで、風は入ってこなかった。出口を塞がれてしまっては、空気は滞留するばかりだ。
私は理香子さんの言葉の意味をひたすら考えていた。
すべては私のため。
私は周りとうまく人間関係を築くことができない人間だから。私には、理香子さんからたくさんのものを奪った母親の血が流れているから。
最初から、私は生まれるに値しない人間で、私が生きてきた十五年間は、無意味でしかなかった。私なんて存在しなければよかった。
いまこうやって私が生きていることを唯一望んでいたのは母なのだ。その母が死んでしまったのなら、私がここにいる意味はない。価値はない。
自分を苛む言葉ばかりが頭の中をめぐっていた。
私なんか生きてたって、誰も喜ばない。
部屋を覆った暗闇が、心にも忍びこんでくる。闇は私が自分でつけた心の傷をやさしく撫で、寄り添うように私を包む。このまますべてをあきらめてしまえば、楽になれるのかもしれない。
暗闇のなかで目を閉じようとしたとき、一筋の明かりのようなものが視界をちらついた。
――君に借りがあるから、今死なれると困るんだよね。
頭に響いたのは、いつかの遊馬の声だ。膝に広げたお弁当箱に突っ込んだ青いラインの上靴。今度返すと言われたまま、お弁当代はまだ返してもらっていない。
ふっと吐息が漏れた。まるで命綱だ。果たされない約束が、闇の中で私を支える一本の綱になっている。



