電車を降り、地元の駅についてからは、念のため離れて歩いた。七都の背中が見えるか見えないかの距離を保って歩くのは、スパイごっこでもしているようで楽しかった。いつか無理やり数字を数えて間を持たせていたときとは、全然心持ちが違う。
川崎家の玄関のドアをくぐると、七都がリビングから手招きをする。
「もう出かけたみたいだ」
ほっと肩から力が抜けた。七都がエアコンのスイッチを入れ、私は冷蔵庫から麦茶を取り出し、ふたりぶんのコップに注ぐ。
「どこに行ったのかな、理香子さん」
「たぶん、義眼屋」
はっと彼を見る。七都はなんでもないという顔で置かれたコップを手にとった。
「毎年この時期に、メンテナンスだかチェックだかに出かけてる」
「知ってたの……?」
理香子さんは七都には見せたことがないと言っていた。たしかに、母親が目を取り出す場面をごく幼いときに見てしまったら、ひどくショックを受けるかもしれない。私もとても驚いたのだから。
「なんとなく、右目の動きが変だなくらいには。で、親父のメモ書きを見て、義眼って知った」
メモ書きにはきっと、私の母親が理香子さんから右目を奪った出来事が詳細に綴られているのだろう。真実を知りたい気持ちは変わらないけれど、知るのが恐い気もする。
「義眼って二年くらいで取り替えなきゃいけないらしい。でも基本は一日に一回洗浄すればいいんだと」
「調べたの?」
「まあな。やっぱり母親が使ってるものだから、知っておきたいっていうか」
私もそうだ。理香子さんが義眼だということを知ってから、できる範囲でそれについて調べていた。
最初はいきなり突きつけられて漠然と恐いと思っていたけれど、それは「知らない」からこそ湧き上がる恐怖だったのだと、調べれば調べるほど感じた。



